上園正人・瀬角龍平共著『石碑が語る大隅の歴史』(高城書房)が出版されました。執筆者は中国近代史研究会と鹿児島資料講読会の会員です。瀬角氏は垂水市文化財保護審議会会長、大隅史談会会長でもあります。

著者は大隅の各地にある30基の石碑等の文を解読し、各々に概要説明、転写した原文、読み下し、わかりやすい表記、注(言葉の説明)、口語訳を付けて、読者の理解を助ける配慮がなされています。

各資料は「疎水・開田」「鎮魂」「顕彰」「桜島噴火」に分類されて記載されています。市町村の郷土史には書かれていない貴重な記録も散見されます。

本書を読むと、昔は大隅各地に生活上の塗炭の苦しみとそれを改善・克服する営みがあったことが分かります。その過程で地域づくりに貢献した人を多数輩出し、また戦や災害などで若い親族を失う悲劇もありました。全体を通して印象的なことは、故人の人徳を慕って顕彰したり、シラス台地などで水を獲得する苦闘の足跡を記録する石碑が多いことです。

なお、紹介者が特に心を揺り動かされたのは「孝子市太郎墓」と「山下家の六地蔵背面碑文」です。子供を亡くした親と地域の人の痛切な嘆きと宗教心とも言うべき真心が、文面からうかがわれます。

本書により困難に耐えたり乗り越えた大隅各地の先人の足跡をたどりますと、読者は郷土への愛着が増すとともに、奮起をうながされると思います。

この機会に『石碑が語る大隅の歴史』(2,200円税込み)をお求めいただき、郷土史の勉強と郷土の人材育成に役立てていただくことを希望いたします。

(紹介者:朝倉悦郎)